帝国の時代をどう生きるか
『帝国の時代をどう生きるか 知識を教養へ、教養を叡智へ』佐藤 優, 角川oneテーマ21, 2012年4月
各国が覇権を競い合う帝国主義的な発想を行って日本は外交に専念せよ、そして「大きな物語」を持って現実に対処せよというのが本書のメッセージである。
前半の「理論編」と後半の「実践編」は投稿された雑誌メディアが異なる。さらに時期的にもズレがある。このため本書を通読してみたものの、木に竹を接いだような印象が否めない。個別の論考には興味を持って読んだが、通読すると前半と後半の論旨がどう繋がっているのか私にはよく理解できなかった。
前半はマルクス主義の研究者の言説を比較し、宇野弘蔵氏の経済哲学についての論考が主体となっている。マルクスの経済学に不案内な私にとっては読み進めることに非常に困難を伴った。これは一方的に私の能力不足に拠るところであり、佐藤優氏に非は無い。私が理解した範囲で述べると、全体の結論としては宇野弘蔵氏の経済哲学論を佐藤優氏は支持しているのであり、新自由主義を捨てて「大きな物語」としての宇野弘蔵氏の唱えた教養主義に立ち戻れということである。
非常に基本的な認識なのであるが、本書では新自由主義が跋扈し不平等を通り越して貧困を齎したと佐藤優氏は書いている。この根拠としている具体的な数字は本書97ページの「年収200万円以下、一千万人越える 民間給与統計」という新聞記事ひとつである。これは、あまりにも説得力が乏しい。現実世界の事ではなく、主義について語っているのだと捉えるにしても、貧困が社会格差を生じせしめていると論理が展開されている限り、どうしても頭に引っかかる。貧困、不平等について論じるのであれば、ジニ係数といった経済統計を用いるか、この指標に批判なりせめて言及はすべきである。
経済学は単なる実社会に役立つ道具ではなく、思想、世界観の表象であるというのが佐藤優氏の論旨であるというのは頭では理解している。「大きな物語」を宇野弘蔵氏の論に求めた佐藤優氏の哲学的な冒険をここでは理解することにしよう。
本書後半は佐藤優氏の外交論的実践論。ロシアに関する佐藤優氏の分析と発言には私は注目している。「外交は言葉のやりとりの芸術」との表現が面白い。メッセージ性を持った言葉が相手国に伝わる。相手国に投げられたボールに相手は無視するのか、反応するか。微妙なニュアンスを公開された情報から読み解く佐藤優氏の視点が参考になる。
ただし、佐藤優氏がロシアを帝国主義と見なしている点には疑問が残る。ロシアは1991年に崩壊したのをピークに、海外へのコミットメントをどんどんと削る方向にある。もちろん周辺国の細かい紛争は絶えないけれども、それは以前のソヴィエト連邦時代の帝国主義の「後片付け」であるように私には思われる。冷戦時代のソヴィエトを知るアメリカはロシアに「帝国主義」を見出して、無理やり仮想敵国に仕立て上げているように見える。プーチン大統領の選挙プロセスに難癖をつけるアメリカは、ロシアが実は「普通の」国になりたがっているというメンタリティーを理解していないからではないだろうか。民族主義や中央集権的な力が強いのは実はロシアの周辺国であって、ロシア自体には力が残っていないのではないか。そのような仮説をもとに最近の事例を読み解いてみたら、どうだろう。
中国がカジノを開くという名目で空母を旧ソ連のウクライナから購入し、あとで空母に転用しようとしている。中国らしい狡猾さには思わず苦笑い。日本にもカジノの創設にむけてリサーチを行っている自治体があるようだが、いっそ複数の自治体で共同で空母を購入して移動式カジノを開いてみるのはどうだろうと思ってみる。
東日本大震災に関連して、復興のためには日本はイデオロギー、「国民の物語」が必要だと佐藤優氏は書いている。これに関してだが、我々は先の東日本大震災のダメージを経済的に過大に評価しすぎていないであろうか。経済学者の原田泰氏が『震災復興 欺瞞の構図』新潮新書, 2012年3月という本の中で、それこそ「1000年に一度」の大盤振る舞いで不要な税金が無駄に使われることになることを指摘している。「国民の物語」という大義名分には日本人は弱い。復旧に必要なものと、そうでないものにしっかり分けて考える視点も必要だ。
本書の序章で3/5の野田プーチン電話会議が採り上げられている。5/11にはロシア側からの要請により再び野田プーチン電話会議が行われたと伝えられている→野田プーチン6月、北方領土問題話し合う - 政治ニュース: nikkansports.com。ロシアと日本との関係は新たな「物語」が創設されなければならない。日本にシグナルを送ってきてはいるものの、一筋縄でいく相手ではない。この経緯をしっかり見届けたい。
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Kiankou books review 佐藤 優氏の著作
『この国を動かす者へ』徳間書店, 2010年3月
『国家の罪と罰』小学館, 2012年2月
『帝国の時代をどう生きるか 知識を教養へ、教養を叡智へ』角川oneテーマ21, 2012年4月
各国が覇権を競い合う帝国主義的な発想を行って日本は外交に専念せよ、そして「大きな物語」を持って現実に対処せよというのが本書のメッセージである。
前半の「理論編」と後半の「実践編」は投稿された雑誌メディアが異なる。さらに時期的にもズレがある。このため本書を通読してみたものの、木に竹を接いだような印象が否めない。個別の論考には興味を持って読んだが、通読すると前半と後半の論旨がどう繋がっているのか私にはよく理解できなかった。
前半はマルクス主義の研究者の言説を比較し、宇野弘蔵氏の経済哲学についての論考が主体となっている。マルクスの経済学に不案内な私にとっては読み進めることに非常に困難を伴った。これは一方的に私の能力不足に拠るところであり、佐藤優氏に非は無い。私が理解した範囲で述べると、全体の結論としては宇野弘蔵氏の経済哲学論を佐藤優氏は支持しているのであり、新自由主義を捨てて「大きな物語」としての宇野弘蔵氏の唱えた教養主義に立ち戻れということである。
非常に基本的な認識なのであるが、本書では新自由主義が跋扈し不平等を通り越して貧困を齎したと佐藤優氏は書いている。この根拠としている具体的な数字は本書97ページの「年収200万円以下、一千万人越える 民間給与統計」という新聞記事ひとつである。これは、あまりにも説得力が乏しい。現実世界の事ではなく、主義について語っているのだと捉えるにしても、貧困が社会格差を生じせしめていると論理が展開されている限り、どうしても頭に引っかかる。貧困、不平等について論じるのであれば、ジニ係数といった経済統計を用いるか、この指標に批判なりせめて言及はすべきである。
経済学は単なる実社会に役立つ道具ではなく、思想、世界観の表象であるというのが佐藤優氏の論旨であるというのは頭では理解している。「大きな物語」を宇野弘蔵氏の論に求めた佐藤優氏の哲学的な冒険をここでは理解することにしよう。
本書後半は佐藤優氏の外交論的実践論。ロシアに関する佐藤優氏の分析と発言には私は注目している。「外交は言葉のやりとりの芸術」との表現が面白い。メッセージ性を持った言葉が相手国に伝わる。相手国に投げられたボールに相手は無視するのか、反応するか。微妙なニュアンスを公開された情報から読み解く佐藤優氏の視点が参考になる。
ただし、佐藤優氏がロシアを帝国主義と見なしている点には疑問が残る。ロシアは1991年に崩壊したのをピークに、海外へのコミットメントをどんどんと削る方向にある。もちろん周辺国の細かい紛争は絶えないけれども、それは以前のソヴィエト連邦時代の帝国主義の「後片付け」であるように私には思われる。冷戦時代のソヴィエトを知るアメリカはロシアに「帝国主義」を見出して、無理やり仮想敵国に仕立て上げているように見える。プーチン大統領の選挙プロセスに難癖をつけるアメリカは、ロシアが実は「普通の」国になりたがっているというメンタリティーを理解していないからではないだろうか。民族主義や中央集権的な力が強いのは実はロシアの周辺国であって、ロシア自体には力が残っていないのではないか。そのような仮説をもとに最近の事例を読み解いてみたら、どうだろう。
中国がカジノを開くという名目で空母を旧ソ連のウクライナから購入し、あとで空母に転用しようとしている。中国らしい狡猾さには思わず苦笑い。日本にもカジノの創設にむけてリサーチを行っている自治体があるようだが、いっそ複数の自治体で共同で空母を購入して移動式カジノを開いてみるのはどうだろうと思ってみる。
東日本大震災に関連して、復興のためには日本はイデオロギー、「国民の物語」が必要だと佐藤優氏は書いている。これに関してだが、我々は先の東日本大震災のダメージを経済的に過大に評価しすぎていないであろうか。経済学者の原田泰氏が『震災復興 欺瞞の構図』新潮新書, 2012年3月という本の中で、それこそ「1000年に一度」の大盤振る舞いで不要な税金が無駄に使われることになることを指摘している。「国民の物語」という大義名分には日本人は弱い。復旧に必要なものと、そうでないものにしっかり分けて考える視点も必要だ。
本書の序章で3/5の野田プーチン電話会議が採り上げられている。5/11にはロシア側からの要請により再び野田プーチン電話会議が行われたと伝えられている→野田プーチン6月、北方領土問題話し合う - 政治ニュース: nikkansports.com。ロシアと日本との関係は新たな「物語」が創設されなければならない。日本にシグナルを送ってきてはいるものの、一筋縄でいく相手ではない。この経緯をしっかり見届けたい。
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Kiankou books review 佐藤 優氏の著作
『この国を動かす者へ』徳間書店, 2010年3月
『国家の罪と罰』小学館, 2012年2月
『帝国の時代をどう生きるか 知識を教養へ、教養を叡智へ』角川oneテーマ21, 2012年4月
Topic : 新書・文庫レビュー
Genre : Books/Magazine




