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バナナの世界史

バナナの世界史 歴史を変えた果物の数奇な運命 ヒストリカル・スタディーズ01』ダン・コッペル, 黒川 由美(訳), 大田出版, 2012年1月


本書はバナナをめぐる人間の文明との関わりや、アメリカ企業と国家の絡んだ歴史、その背後にあるプランテーションを支えた貧しい農民の暮らしがあることを想起させるとともに、生物学的なバナナの弱点がよく理解できた。


バナナと人間の歴史。非常時には水も火も使わずに食べられる救援物資になる。飢餓に苦しむ難民にも容易に育てられる植物でもあることから、人類にとっては非常に重要な食料だ。

バナナは比較的栽培しやすいが、疫病に弱い。不稔実であることから品種改良は容易でない。20世紀にはアメリカの企業家とアメリカの国家が結託し、プランテーションで無節操に栽培を広げ、中南米の農民に低賃金労働を強制した。人間の愚かさの歴史がバナナに詰まっている。

皆が西へと目指したゴールドラッシュと似たような感覚で、バナナに利益を求めていった歴史が本書に書かれている。蒸気船や鉄道の敷設など、技術革新がバナナを遠隔地での消費を可能にした。開拓時代のアメリカの話を聞くようで、キースやプレストン、サミュエル・ザムライの話は長閑さもあって面白い。しかし、彼らにはバナナを生産する側の国に利益になることを考えようなどといった発想がなかった。

コロンビアのビオレンシア(→ご参考: 『ビオレンシアの政治社会史 若き国コロンビアの“悪魔払い”(アジアを見る眼) 』寺澤 辰麿, アジア経済研究所 独立行政法人日本貿易振興機構, 2011年11月 - 暴力社会 - の原因がバナナだけにあるとは言わないけれども、不安定を助長したのかバナナであった。グアテマラの反乱ではアルベンス大統領の稚拙な政策がアメリカの怒りを買ってしまったようだが、地元の利益をまったく考慮しないかのごとく奢ったアメリカ企業とアメリカ国にも問題があった。

圧倒的な軍事力を持つ国家の後ろ盾をもとに、グローバル企業が海外に進出するアメリカのこの構造は、現在もまったく変わっていない。


疫病に抵抗力のあるバナナを開発するよりも、新しい土地を見つけてどんどん進出するほうが簡単だったことが不幸を助長した。疫病が蔓延するや、新天地を開拓することでこれまでどうにかバナナの供給を補ってきたのである。限られた土地を繰り返し有効に使う以外に生き延びる道のなかった日本人にとっては、俄かには信じがたい話だ。


このバナナをめぐる疫病(パナマ病など)は確実に広がっている。近いうちに現在のバナナが食べられなくなる恐れが非常に高いらしい。これは日本人にあまり知られていない。

解決策の一つとして遺伝子操作の方法があると本書に書いている。ダン・コッペル氏は、だが、※GMOについては否定的だ。

※GMO: genetically-modified [genetically-engineered, genetically-altered] organisms 遺伝子組み換え生物

バナナの危機を救うのはGMOしかないかもしれない。不稔実のバナナは品種改良が非常に難しく、時間がかかる。従来の方法では、50年かかって、1種類だけしか新種の開発に成功しなかったのである。

GMOについては、技術的な側面、政治的な側面、そして感情的な側面に分けて考える必要がある。技術的な側面についてはほとんどクリアされていると見てよいのではないだろうか。反論はもっぱら政治的、感情的な側面だ→ご参考:『遺伝子組み換え食品との付き合いかた GMOの普及と今後のありかたは?』元木 一朗, オーム社, 2011年11月。日本では2012年7月29日現在で189品種の食品が安全性審査の手続きを経て認められている→

遺伝子組換え食品|厚生労働省


元木一朗氏の本に書いてあったように、モンサント社のような自社の利益を最大化させたいと考えている企業がある限り、これらの手により作られたGMOは普及させるべきではない。これがGMOの一つの政治的な側面である。もう一つはダン・コッペル氏も指摘するように、表示の問題である。アメリカは遺伝子組換え食品を含む食品の表示義務を漸次撤廃するよう誘導している。これはモンサント社によるロビー活動の影響が大きい。最近日本で問題となっているTPPが進まないのもこれが理由のひとつとも言われている。

日本の消費者のみならず、アメリカ人のダン・コッペル氏もGMOの表示義務が無いことは問題だと考えていることを知り、勇気づけられた。アメリカ人はGMO自体も、表示義務もまったく意に関しないと私は思っていた。

感情的な側面についてはこれは多言を要しない。感情的にダメとなったら、これはもう、だめだ。ただし、遺伝子操作とは何かということについて正しい情報、事実が伝わっていない恐れがある。きちんとした科学的な情報がまずは伝達されるべきだ。ダン・コッペル氏の本書に簡単に記述された内容は、この部分だけを読んだのでは誤解する人が少なからず出る恐れがある。

プランテーションと技術革新のおかげで安い値段で食べられるようになったこの果物は、生物学的な弱点のため、今と同じものは将来食べられなくなる恐れがある。遺伝子組み換えを選ぶか、それとも今とは違う種類のバナナで我慢するか。人類は決断を迫られている。
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ジャンル : 本・雑誌

リンゴが教えてくれたこと

リンゴが教えてくれたこと』木村 秋則,日経プレミアシリーズ,2009年5月

周囲に変人扱いされながらも無肥料・無農薬のりんご造りにこだわり、10年近い歳月をかけてついに成し遂げた男。文字通り地を這い全てを賭けた彼の農業に対する姿勢を通して得られた経験と知識に裏打ちされたかれの語りは、日本人が忘れかけていた農業に対する真摯な姿勢を思い出させてくれました。

農業が日本の中心産業の座を降りてからずいぶん経ちます。他のきらびやかな産業に比べると、農業はダサいもの、将来の無いものといった間違った考えが日本人の間に広まってしまいました。農家は肥料や農薬に頼り、消費者はそのように作られた農産物を欲し、政府は補助金で農家を腐らせてしまいました。高齢化も進み、農業の将来に先の見えない状況下で、木村秋則氏の説く農業はひとつの方向性を示しています。

木村秋則氏のやり方は、無肥料・無農薬ではありますが、放置する方法とは全く異なります。木村秋則氏は植物と昆虫(害虫)に徹底的に向き合い、ファーブルが昆虫に注いだのと変わらない愛情を注いています。対象を、よく観察しています。害虫の「ハマキムシ」を可愛いと表現した木村秋則氏の感性には恐れ入りました。

我が家には猫の額の家庭菜園があるのですが、木村秋則氏は家庭菜園にも深い理解を示していて、無肥料・無農薬が可能だと言っています。なかなかそこまで腰を落ち着けてやる事は、非常に面倒です。でも職業として人様に食べ物を提供するやるからには、木村秋則氏の意見に耳を傾ける必要があろうと思います。

肥料を施した田よりも施さなかった木村秋則氏の田の方が稲の収穫量が多かったとは驚きです。観察に裏打ちされた論理的な裏づけを持っているからそれだけの自信があるんですね。

2009年の秋、農産物直売で有名な千葉県の「ながら」という道の駅の近くにある観光栗農園に行った時のこと。木村秋則氏が山奥で見たような、ふかふかの土に生える元気な栗の樹がそこにはありました。バッタや小さい虫のいるふかふかの下草の中に生える栗の樹は木村秋則氏の言うとおり喜んでいるかのようでした。その栗園でも無農薬・無堆肥で作っているとの事でした。拾った栗は持ち帰って蒸しましたが、虫食いもほとんどありませんでした。こういう農業ならやっても良い、とその時私は思いました。今時は手入れの行き届いていない田畑が日本各地にあると聞きます。家庭菜園として一般人に貸し出す制度がもっと一般的になると良いですね。

テーマ : 果樹栽培・畑作・稲作
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Kiankou

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