津波災害――減災社会を築く

津波災害――減災社会を築く』河田 惠昭,岩波新書,2010年12月

2010年2月27日にチリ沖地震が発生した。日本では168万人の住民に対して避難指示・避難勧告が出されたにもかかわらず、実際に避難したのは3.8%の6.4万人に過ぎなかった。他の災害と異なり、津波は「逃げる」事で被害を低減させることの可能な災害だ。しかし、情報の伝達が正しくなされているにも関わらず、避難しない人が圧倒的だった。過去の経験が正しく活かされていない。この先、津波発生後の情報伝達の方法はさらに精度を増すだろうが、肝心の、人を動かす手段についての研究が遅れている。

本書は津波の詳しい発生メカニズムからはじまって、過去の事例をふんだんに盛り込み、津波災害と、その後の復興までを視野に入れた情報満載の書である。人間は忘れやすい動物だ。喉元過ぎればなんとやら。「情報や知識だけでは実際には役立たない」との本書の指摘が痛いほど分かるけれども、それでもこのような書を定期的に読む事は、読まないよりも幾分かはまし、と自分に言い訳をしつつ読んだ。

ページを繰る毎に驚きの連続である。「津波の前には引き潮が必ずある」というのが間違った見方であること。徒歩での避難が前提ではあるが、場合によっては車での避難も視野に入れた方が良いことなど、具体的な提言がふんだんに盛り込まれており、目を見張った。

「近所の人を誘い合いながら逃げるのではなくて、大きな声で叫びながら自分が率先して逃げると良い」といった行動心理学的な成果には注目したい。生きるか死ぬかを分ける究極の場面で人を動かす術を学ぶことは重要だ。「屁理屈をつけて、自分に都合の悪い情報は過小評価する」というのも、ありがちだ。このような性質があることを見越して津波対策を講じるというのも重要だが、ひとついえるのは、行政だけに任せていたらとてもダメだということである。自分の身は自分で守る。これしかない。

チリ沖地震の時には津波注意報・警報がずいぶん長い時間発令されていた。波の周期によって伝達速度が異なったり、反射があるために完全な予想が出来ないことは頭では理解出来るのだが、あまりにも長い時間にわたって出されると、「飽き」というか、「慣れ」が発生してしまう。これは津波のメカニズムや、過去の事例が正しく理解されていないからであるけれども、何かもう少し工夫の仕方がありそうだ。

Kiankouのフォローをおねがいします @kiankou #books #book
スポンサーサイト

テーマ : 新書・文庫レビュー
ジャンル : 本・雑誌

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

Profile

Kiankou

Author:Kiankou
新書・新刊・社会科学・自然科学・経済・青春小説・エッセイ・思想・教育・児童・絵本・書籍の読書感想、書評、レビュー。
新書入門、文庫入門で何を読もうかと迷っていらっしゃる方にも、ご参考になれば幸いです。profile


いろいろなおすすめリスト

週間人気ページランキング


Twitterボタン

Latest journals
Search form
Latest comments
Latest trackbacks
Monthly archive
Category
Link
twitter
Display RSS link.