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ポスト戦後社会 シリーズ日本近現代史 9

ポスト戦後社会 シリーズ日本近現代史 9』吉見 俊哉, 岩波新書, 2009年1月


戦後の高度成長が準戦時体制であったとして、ポスト戦後社会はどのような社会と歴史で評価されることになるのであろうか。現在は過去からの連綿とした連続の中にあるため、自らを定義することは難しい。だが、それが意識される瞬間がある。

「あさま山荘事件」は吉見俊哉氏が指摘するとおり戦時総力体制時代の遺物が突如として現代に現れた瞬間だった。それはまるで大昔の恐竜の化石が山腹を削って宅地造成中の山肌に露出したようなものである。お洒落な軽井沢の地と、テレビによる生中継。時代は高度成長の真っ只中にあったものの、消えつつある準戦時体制の名残を強く意識させるものだった。

経済成長の視点からすると1989年をピークに日本経済は成長が大きく鈍化している。日本は準戦時体制的な意識が無くなったわけではないが、成長の鈍化は日本人の中に新たな行動意識を生じさせつつある。それまでの経済一辺倒からの意識の転換が一つ。年収は減ったが、生活に余裕を持つことができるようになった中間層が増えた。

準戦時体制を今でも継続しているのが、官僚主導にて作られた社会保障システムや公共工事である。民間の企業が不況に応じて自らの売り上げを減少させ年収の伸びを調整させたにも関わらず、伸び行く経済環境や人口を前提に作られた古いシステムは、容易には変更できない。不況を背景に、これらのシステムが消費するお金を目当てに、既得権益者が群がる。自らの組織の拡大のみを図る官僚組織は、このように、今に残る準戦時体制の名残である。

阪神・淡路大震災や東日本大震災など大きな自然災害に日本はなす術の無い如く翻弄される。だが、これは日本の歴史を見ればさほど特異的なものでないことは理解できる。奈良・平安時代にも今日の大災害に匹敵するおおきな自然災害は頻発していた→『歴史のなかの大地動乱』保立 道久, 2012。被害の甚大さは筆舌に尽くしがたいが、日本の辿ってきた過去をみれば、いつかは回復に向かう。

公害や環境問題に関わる問題は、明治以降の準戦時体制と高度成長時代からの宿題である。高度成長からポスト戦後社会へと移行していく中で、我々はこれらの問題についてすでに決着済み、解決済みの過去の問題だと錯覚している。ところが、福島第二原発の事故はこれが全くの幻想であったことが明らかになった。お役所の父権主義・秘密主義は戦時体制そのものであったし、お上に任せておけば何とかなるといった、民衆の人任せ主義も全く進歩が見られない。原発以外にも六価クロムや水銀、ヒ素をめぐる問題が、一部で進行している恐れがある→『重金属のはなし』渡邊 泉, 2012。ここでもお役所の父権主義・秘密主義と民衆の人任せ主義が重なっている。


現代社会の悪い面については、いくつも簡単に指摘できてしまう。それでは、ポスト戦後社会おいて日本と日本人が将来の歴史に向けて明るい材料を提供しているものは何だろう。

ひとつは、奈良・平安以来の日本の伝統が、現代風のさまざまな様態に形を変えつつ、開花しつつあることである。繊細で精緻を極める平安王朝の文学の頂点に立つ『源氏物語』に代表される文学作品は、創造性、世界観、人の機微に通じる情感の豊かさで追従を許さない。今日のアニメブームに至る日本人の情感の豊かさは、やっとその一部が認められ始めたばかりである。

デザイナーの原研哉氏は『日本のデザイン』(2011)の中で日本人に共通する美意識として繊細・丁寧・緻密・簡潔を挙げている。刺身がおいしく戴けるのも、街の中が清潔なのも、電車が時刻どおりに運行されるのも、日本人の美意識がそうさせている。山を切り崩し、護岸工事で風景を台無しにしてしまい、天災で多くのものを失い、経済が停滞し、原発に畏れる毎日を送る日本人は、すっかり自信をなくしてしまったように見える。だが、もともと備わった日本人の美意識こそ、日本に受け継がれてきた資産である。長い歴史を経て蓄積したこの日本の資産は、ちょっとやそっとでは損傷を受けない。

これらの豊かな資産を受け継ぎつつ、世界に向けて新たな価値を創り出す時代に我々は生きている。


さて、これで岩波新書シリーズ日本近現代史を1巻から全て読み通した。いま、第10巻のあとがきの部分を読み返している。近現代史は歴史の中でも現代に直結するものである。現代は現在進行形で新しい歴史が加わりつつあるが、近現代史こそは、頻繁に読み直され、解釈が改められるべき時代区分である。新書という「入れ物」はそういった新しい解釈を大胆に世間を啓蒙する上でよい媒体である。これからも、折をみてこのような企画を随時続けてほしい。

さて、これで「岩波新書の日本近代史を通読する」宿題も片付いた。これは私が決めた私自身への宿題だった。

この第9巻を著した吉見 俊哉氏の名前はいろいろなところで目にするので最近気になっているのだが、また、そのうち読んでいくことにしよう。さしあたっては『日本の近現代史をどう見るか シリーズ日本近現代史 10』にて紹介されている本を中心にゆっくりと読んでいくつもりでいたのだが、ブログの更新を停止するので、その書評をいつ公開することになるのかは分らない。



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Kiankou書評 岩波新書 シリーズ日本近現代史

井上 勝生『幕末・維新 シリーズ日本近現代史 1』岩波新書, 2006年11月
牧原 憲夫『民権と憲法 シリーズ日本近現代史 2』岩波新書, 2006年12月
原田 敬一『日清・日露戦争 シリーズ日本近現代史 3』岩波新書, 2007年2月
成田 龍一『大正デモクラシー シリーズ日本近現代史 4』岩波新書, 2007年4月
加藤 陽子『満州事変から日中戦争へ シリーズ日本近現代史 5』岩波新書, 2007年6月
吉田 裕『アジア・太平洋戦争 シリーズ日本近現代史 6』岩波新書, 2007年8月
雨宮 昭一『占領と改革 シリーズ日本近現代史 7』岩波新書, 2008年1月
武田 晴人『高度成長 シリーズ日本近現代史 8』岩波新書, 2008年4月
吉見 俊哉『ポスト戦後社会 シリーズ日本近現代史 9』岩波新書, 2009年1月
岩波新書編集部『日本の近現代史をどう見るか シリーズ日本近現代史 10』岩波新書, 2010年2月
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