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ベニョフスキー航海記

『ベニョフスキー航海記(東洋文庫 (160)』ベニョフスキー(著), 水口 志計夫, 沼田 次郎(編訳), 1970年4月, 平凡社


稀代のペテン師
鎖国時の日本人と接触した稀代のペテン師による航海記。海外ではその記述はもとより信憑性に疑いのあることから、史料的な価値はあまり認められてこなかったようである。しかしながら、ベニョフスキーと同一の船に乗った複数の人物の航海記等を照らし合わせると、真実も含まれていることがわかっている。小説的な読み物として楽しむのも良いが、嘘の中に潜む真実を見つけ出すことができれば、また格別であろう。シュリーマンがホメロスのトロイア戦争を真実だと信じなければトロイアも発見されなかったではないか。

このベニョフスキーという人物、かなりの曲者である。生年と生い立ちを偽り、男爵を名乗り、流刑ののち脱獄を試み、船を奪い、奔走した。百名から成る船員を擁して、カムチャッカから中国経由でヨーロッパへの帰途の途中、鎖国中の日本の四国(阿波日和佐海岸)など日本の数か所に立ち寄った足跡を残している。立ち寄ったのは様々な資料から事実であるらしい。

阿波の殿様に謁見
ベニョフスキーの航海記によると、阿波の殿様に謁見し、たいそうな歓待を受け、たくさんの食糧、水などを得ている。なにせ嘘八百のベニョフスキーのことであるから、どこからどこまでが真実なのか、とんと分からない。ただこの時にベニョフスキーの一団に対応した日本人の様子は、かなりの真実が含まれているように思えてならない。

ベニョフスキーに応対した人物は地方の一役人であるに違いないが、無用に異国人に恐れることもなく、堂々とした態度で接し、身振り手振りで意思疎通を図っている。胆が据わっているのである。鎖国中の日本では出島以外での交易は禁じられているので、ナガサキへ行けと、きちんとマニュアル的な対応を完遂している。思うに、日本が易々と異国に占領されなかったのは、周囲を海に囲まれていた地政学的な理由に加えて、個々人の資質の高さ故ではなかったであろうか。権力こそ徳川の政権下一つに集中されていたのであろうが、判断は各人物の資質次第でぶれも生じようというものである。しかし、ここでは見事に統制された日本人の姿を見ることができる。

阿波日和佐海岸では、船に積まれている大砲を試し打ちして検分した日本人の役人を驚かせている。「6発撃った」と記されている。これが事実であるならば、歴史的にはとても面白いのだが、私がこれまで学んだ日本史でいまだかつてこれを事実として認める記述を見たことが無い。謁見した阿波の大名からベニョフスキーに関わる何等かの資料が得られれば非常に面白い。今後の発見を待とう。

7人の未婚の女性
そのあと立ち寄った種子島ではイエズス会を率いる代表者に気に入られ、7人の未婚の娘のうち1人に白いヴェールをかけ、自分の妻にする機会を得ている。これはアラビアの物語風の奇譚のようにも思われる。とても真実とは思えないが、ベニョフスキーの想像力溢れる筆力に思わず引き込まれる。

ロシア脅威論
ベニョフスキーはいくつかの書簡をのこしており、そのうち、「ロシアの脅威」を語ったものが、後々波紋を呼ぶことになる。なにせ、情報の統制された世界では、情報の信頼性を反証することも出来ない。林子平の『海国兵談』でロシアの脅威を説明する文脈の中でベニョフスキーの名前が登場する。田沼意次が蝦夷の開発計画を進める上でも微妙に影響を与えていたであろうし、水口 志計夫氏によると、日本人の「ロシア嫌い」もベニョフスキーの書簡が影響を与えたと書いている。実際、ベニョフスキーの書簡の間違いにロシアが反証したのは日露戦争後の1909年である(水口 志計夫氏による)。

『蝦夷地別件』のステファン・マホウスキ
船戸与一の小説『蝦夷地別件』は、明らかに『ベニョフスキー航海記』の影響が伺われる。ポーランド出身の百科全書派のステファン・マホウスキは数度の投獄の経緯がある。『蝦夷地別件』の冒頭部分でも船員らが争う場面もあり、この『ベニョフスキー航海記』とにも似た場面が登場する。船戸与一氏は『蝦夷地別件』を構想する上で、『ベニョフスキー航海記』を熟読してインスピレーションを得たに違いない。林子平の『海国兵談』も『蝦夷地別件』の中で重要な意味を持って登場する。


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Kiankou書評: ご参考リンク

『海国日本の明治維新 異国船をめぐる100年の攻防』犬塚 孝明, 新人物往来社, 2011年6月
『蝦夷地別件 上』船戸与一, 小学館文庫, 2012年1月
『蝦夷地別件 中』船戸与一, 小学館文庫, 2012年1月
『蝦夷地別件 下』船戸与一, 小学館文庫, 2012年1月



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