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なぜ貧しい国はなくならないのか

なぜ貧しい国はなくならないのか』大塚 啓二郎(著), 日本経済新聞社, 2014年1月


日本経済新聞社は毎年年末に「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」を発表している。「餅は餅屋」という言葉もあることなので、経済について書かれた書物を選択する際には、私は参考にしている。

さて、この本はそのリストによると第7位にランクされている。ともかく読んでみた。

発展途上国について書かれた書物はいくつか読んでいるが、この本のように、「開発経済学」という視点から書かれたものを読んだのは初めてである。フィールドの実際の現実を知りつつ、単なる自分の経験則や、どうしても越えることのできない「壁」を嘆くだけでなく、統計的な知見を踏まえ、分析を加えながら、独自の視点を盛り込んだ切り口が新鮮である。

分析の途上、日本の明治維新期の農地改革や教育水準について比較して論じているが、日本はかなりラッキーであったと実感する。たとえば農地改革については日本では小作人に土地を分け与えた訳であるが、この書の第6章で論じる忌避策を大規模土地所有者が講じていれば、日本の農地改革は成功しなかった。日本では小作人たる各個人が事業を継続するモチベーションが維持できたことが大きい。もっとも、戦後70年を経過して、土地所有者があまりにも細分化されている上、所有者が固定されており、土地の流動化が難しくなっている。日本の各地、特に地方都市の経済停滞が指摘されているが、開発が滞っているのも、農地改革を基準とする土地制度に問題の端緒がある。

第6章の大塚啓二郎氏の指摘する途上国支援・開発の問題点の指摘は非常にポイントを押さえている。むやみな農業支援や支援金の交付がやる気を殺ぐ結果となることを実際の例を挙げて説明しており、これはしっかりと覚えておきたい。小規模な、家庭規模程度の集団の集まりが重要だとの指摘は非常に新鮮に感じるが、日本の大田区の零細工場やトヨタの傘下企業に活気があるのも、筆者の説明と合致するものであり頷ける。

大塚啓二郎氏は同時に日本の昨今のODAの減額を嘆いているが、これは「身の丈にあった」支援という視点からすれば仕方の無いところである。日本人が苦労して開発した稲の品種が、いまやその由来を胸を張って主張できないのは歯がゆいけれども、今の日本の経済を考えれば仕方が無い。

教育を論じ、教育に重点を置いていない日本にも批判の眼を向ける大塚啓二郎氏の視点こそ正論であるけれども、今の日本は果たして教育に投資をする価値があるのか、疑問に思う。大塚啓二郎氏はシンガポールに移住した日本人母子を例に挙げている。今取るべき行動としては、国内で教育を受けるよりはずっと良いように思えてならない。限られた富裕層だけにしかそのようなことは出来ない。そもそも日本は大学の数が多すぎ、かつ授業料が高い割りに内容が伴っていないのである。ポスドクを多く排出しながら、職業難の状態になっているのは、文部科学省が濫用して大学を増やしているからにほかならない。数だけを増やす文部科学省の戦略は失敗しているのだ。日本は未だ「開発途上国」であるとの認識をもう一度持ち直し、戦略を練り直すべき時期に来ている。

アフリカ諸国は貧困にあえぐ国の集まりとの印象ばかりが私は強いのだが、この本を読むと、替わり行くアフリカの新しい景色が見えてきた。たとえば、アフリカは今「緑の革命」の入り口にいるのだという。アフリカに田園が広がれば、周囲の環境も変わってくるだろう。

第8章でメタンガスが発生するので年中湛水された田は良くない、と大塚啓二郎氏が指摘している。しかし日本では冬季湛水を新しい農法として推進する向きもある。冬季湛水は必要な栄養分を自足する働きを持つ。つまり、肥料の追加が不要になる。メタンガスの発生等マイナス要因があるのであれば、それらと総合した上で判断すべきということになる。

アフリカの開発途上国、発展途上国を論じながら、ヨーロッパ諸国による植民地政策や1950年代の独立といった政治的、歴史的背景には一切踏み込んで論じていない点がこの書の特徴である。議論のあるところだが、そういった分子を排除して、経済学的なアプローチで論じるというのはプラグマティックである。




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Kiankou Books Review

エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10(日本経済新聞,2014年12月29日掲載)

1.『労働時間の経済分析 超高齢社会の働き方を展望する』山本勲/黒田祥子
2.『ミクロ経済学の力』神取道宏
3.『量的・質的金融緩和 政策の効果とリスクを検証する』岩田一政
4.『それでも金融はすばらしい 人類最強の発明で世界の難問を解く』ロバート・J.シラー
5.『サービス産業の生産性分析 ミクロデータによる実証』森川正之
6.『地方消滅 ー 東京一極集中が招く人口急減』増田寛也
7.『なぜ貧しい国はなくならないのか 正しい開発戦略を考える』大塚 啓二郎
8.『コーポレート・ガバナンス』花崎正晴
9.『アダム・スミスとその時代』ニコラス・フィリップソン
10.『その問題、経済学で解決できます』ウリ・ニーズィー、ジョン・A・リスト
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Author:Kiankou
新書・新刊・社会科学・自然科学・経済・青春小説・エッセイ・思想・教育・児童・絵本・書籍の読書感想、書評、レビュー。
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