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ピアノを弾く哲学者

ピアノを弾く哲学者 サルトル、ニーチェ、バルト』フランソワ・ヌーデルマン (著), 橘 明美 (翻訳) , 太田出版, 2014年11月


3人の哲学者のピアノとの私的な関わりを書いた風変りなエッセイである。演奏するときの哲学者は時にぎこちなくポーズを置き、自分の世界の中で音楽と関わっている。作者がここに挙げた哲学者は演奏家ではないから、聴かれることを目的に演奏していない。面白いことに、ここに挙げられた3人の哲学者はそれなりの音楽とピアノの素養がありながら、自分の仕事領域である哲学との関わりを語ろうとしない。それはなぜだろう。フランソワ・ヌーデルマン氏は哲学者を深く洞察する。

さて、フランソワ・ヌーデルマン氏がこの本を書くに至ったというサルトルの弾くノクターンの一部がYoutubeに公開されているので、何はともあれ聴いてみた。

Chopin - Nocturne Op. 15 No. 3 in G minor; Jean-Paul Sartre

この映像から見るサルトルは華奢で、少々緊張した面持ちである。一音一音の発声を重視し、その代償としてリズム犠牲にする。自分のために楽しんで弾いていることは明らかで、視聴者のために聴かせることは目的としない。

現代音楽を論じ、伝統的な美的感覚を「嘔吐」するサルトルが個人的に弾いていた曲がショパンである理由をフランソワ・ヌーデルマンは深く、様々に語る。

ボーヴォワール、サガンらの女性に囲まれ、時代を風刺するポーズを貫いたサルトルであったけれども、ピアノを手放さず保守的な音楽を個人的に嗜んだのはサルトルの母との関係を保ちたかったからだとのひとつの結論に至っている。

楽器を演奏する素人にとっては、自らが演奏する音楽と、聴く音楽、ないしは、批判の対象とする音楽がかい離していても、特に不自然ではない。ただ、哲学者ないしは評論家として前衛音楽を論じ、かつ古典的芸術を否定することにより自らのアイデンティティーを確立した者としては、そのギャップが非常に気になるところである。


本書に2番目に登場するニーチェは、実のところ未だ私の守備範囲外である。だが、音楽の話であれば付いていける。ワーグナーを飲み込み、カルメンにのめり込んだワーグナーは、音楽の素人と言い切ってしまうにはあまりにも知識・技能ともに優れていた。大指揮者ハンス・フォン・ビューローに楽譜を送付したという「マンフレッド瞑想曲」がこれもYoutubeに見つかったので聴いてみた。

マンフレッド瞑想曲

この曲を、ショパンやリスト、ワーグナーと並べて論じるのは、プロの音楽家ではないニーチェにはあまりにも気の毒だ。コジマの言う通り、楽譜を送り付けたりせずに、ハンス・フォン・ビューローにちょっと聴いてもらうとか、なんとかやり方があったはずだ。連弾を人妻のコジマに贈るというのも、送り手のスケベ心が相手に簡単に見透かされるのであるから、かなりの度胸である。ちなみにコジマの夫、リヒャルト・ワーグナーはコジマの誕生日兼クリスマスプレゼントに「ジークフリート牧歌」という小曲を小編成の楽隊が生演奏でプレゼントしてコジマを感激させている。人に喜んで曲を聴いてもらうには、それなりのお膳立てが必要というものである。

それにしても、ニーチェはずいぶんと音楽に恵まれた環境に育ったものだ。羨ましい限りである。ワーグナーを境として前衛音楽家が多数あらわれたのもニーチェの時期以来であり、以降1970年ころまで前衛音楽は発展を続けるのだが、哲学者、文化人、評論家はともかく前衛音楽には一家言持っていた。パフォーマンスというか、ポーズを気取るのが流行った。ちなみに日本では小林秀雄が『モオツァルト』で40番の交響曲を解りもせずに無理に論じていたが、あれは吉田秀和氏への対抗心だったと聞き、後からなるほどと納得したものである。


本書最後に現れるラカンについても残念ながら私の守備範囲外。かろうじて内田樹先生が『寝ながら学べる構造主義』にて論じ、「鏡像段階理論」を説明されておられた内容を僅かに記憶に残すのみである。

フランソワ・ヌーデルマン氏はラカンを丸裸にする。ラカンが音楽に完璧性を追求せず、素人性を尊重したのはなぜだったのだろう。「ピアノが私に触れる」というエロチックな妄想を奇想させるような、ラカンの音楽との関係性。理性よりも感性で接していたのだろう。

私もシューマンを聞くけれども、バルトや、他の演奏家のようにはシューマンの世界には入りきれない。ショパンやリスト、シューベルトもわかるのだが。シューマンをよく理解するにはピアノの演奏者の立場にならないとだめなのかもしれない。




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