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労働時間の経済分析

労働時間の経済分析 超高齢社会の働き方を展望する』山本勲,黒田祥子(著), 日本経済新聞社, 2014年4月

日本人は働き過ぎなのか。本書は民間企業(といっても日本銀行だが)から大学の研究職へと立場を変えた著者が自らの長時間労働の経験を踏まえつつ、原因を経済学的に分析しつつ、改善に向かうための方策を探った書である。

日本人と一言で言っても、雇用形態は千差万別であり、正規・非正規のほか、年齢や性差をここ数十年の推移で追うのは非常に骨の折れる仕事である。本書は先行する様々な研究を踏まえつつ、日本人の労働時間の実態に迫ったもので、基礎的な統計資料として再利用価値が高い。

たとえば第1章、図1-8 壮年男性正規雇用者に占める長時間労働者比率を見ると、労働時間が週60時間を越える壮年(20-49歳)男性は2割もいることが分かる。そしてその傾向はここ30年で大きな変化は無い。

本書のほとんどは統計データを基礎としてその解析により実態に迫る手法を用いる。このため論理の流れが非常に明確で理解しやすい。私は経済分析に用いられた数式についてはほとんど理解出来なかったが、分析データの解析は、分かりやすい言葉でまとめられているので、結論部分のみを拾い読みしていくだけでも筆者の論旨は理解できた。


結論の方向性としては消極的すぎる

筆者の分析によると、日本人は外国人に比べて労働時間が長い。これは終身雇用を前提とした不況期の対応を考えると合理的とも考えられるとのことで、安易に形だけ労働時間を短くしてしまうと悪影響が出る恐れがあるとも述べている。ドラスティックな変化を避け、欧米的な考えを部分的に採り入れて手直して対応すべき、というふうに筆者は考えているように思われる。

これは一つの真実ではあるのだが、無意味な長時間労働がもたらす生産性の低下と心身への影響を考えると、筆者が推進すべき方向性としてはかなり保守的過ぎる。とくに心身への悪影響の対策は、現状の法規に任せていたのでは悪い方向性が益々助長されるのではと私は懸念する。

本書の指摘する「ワークライフバランス」の推進についても、その内容が曖昧で、実効性に乏しい。ただし海外企業の比較の中で、海外企業の良い所を採り入れるべきだというのは同意する。詳細については後で述べる。


2015年4月3日に閣議決定された残業代ゼロ法案に関連して

安部政権が推し進めたいわゆる「残業代ゼロ法案」が先週の金曜日に閣議決定された。対象者は年収1075万円以上の特定のビジネスマンに限られるが、安部首相がこの法案にこめた思いは、「仕事は時間でなく、中身にて判断すべきだ」ということであろうと察する。
仕事の評価が時間の長さではなく中身で判断されるべきだというのは至極真っ当な論理である。製造業のラインにて同一の作業を複数の人間で分担するのであれば長時間労働したものが多くの給与を得るべきであるが、そのような形態に合わない職が最近は数多く存在する。従来から「ホワイトカラーエグゼンプション」は日本にも存在しているが、それ以外の職については残業時の時間給の扱いが労務管理の面で非常に煩わしく、現場の部課長から現状を変えて欲しいとの要望が数多く寄せられていたのであろう。

この法案はこのように「仕事は時間でなく、中身にて判断すべきだ」という新しいパラダイムを推し進めるためのひとつの指標的な意味が込められた法案であったように思われる。

残業代ゼロ法案は日本の働き方を変えるか

本書では、日本人の「労働時間観」において、極めて興味深い調査・分析結果を紹介している。すなわち、日本人が長く労働するのは、給与アップを目的としていないという点。もう一つは、残業による労働時間の増加が、自由時間の剥奪につながったとしても、特に不満を感じていないという点である。

つまり、日本人は長い労働時間を苦にしない働き方に飼い慣らされて来たということなのだ。

このような下地のある中で、「はい、それでは明日からは労働時間については全く考慮しません」と言われたことを想定すると、すぐに働き方が変わるはずがない。つまり、従来まで長時間働いて来た人は、この法案の有無に関わらず、明日も同じくらい長い時間労働するであろう。

そうなってみると、法案の作成時に目標として掲げられた「仕事は時間でなく、中身にて判断すべきだ」というスローガンは、労働者にとっては何の意味も成さない。懸念されるのは、心身の健康を害する者が増えないか、ということだ。

私見だが、残業代ゼロ法案では残業の時間が給与に考慮されなくなる点については良いとするが、労務管理面で見た場合、残業時間の上限についてはやはりきちんと管理されるべきだ。そうしないと、健康を害する人間が続出しかねない。この点はきちんと考慮されているのだろうか。


欧米の働き方との違い

日本人の労働時間に対する考え方、ないしは労働観は海外との比較の上で明らかになる。本書では日本人が海外赴任された方への調査・分析を行い、労働時間に対する考え方に変化のあったことが分析されている。この分析結果は私には合点の良く部分が多い。

欧米諸国へ赴任した経験はないが、私はここ20年近くの間外資系企業の日本法人にて勤務している。労働時間に関する考え方が日本と欧米国との間でずいぶんと異なる。

労働時間でみると、欧米人は朝のスタートダッシュがものすごく早く、速い(もちろん人にもよる)。本書にも紹介のあるとおり、ゴールを決めて、その間はものすごくダッシュする。無理も長時間労働も厭わない。その代わり、ゴールを過ぎたら、ゆっくり休暇を取る。そのメリハリが羨ましい。

日本人がこのリズムを自ら生み出すのは無理だろう。本書でも指摘されているように、欧米赴任から日本企業に戻ると、労働のリズムはまた元の日本の会社のやり方に戻ってしまう。

私自身の話を少しすると、私の日々接するお客様は日本のビジネスマンである。こういった方と接していると、こちらも日本の会社時間に合わさざるを得ない場合が多々ある。


無駄な労働時間の使い道

本書211ページに以下のような記述があり、私は多いに膝を打った。

「たいていの仕事は2割の労力で8割程度の完成度に仕上がるものであり、欧州の労働者はその段階までしか仕事をしない。これに対して、日本人は残りの8割の労力をかけて10割の完成度を目指そうとするが、そこまでしても結果は大きく変わらない」

はっきり言って日本人の仕事は無駄が多すぎるのである!

話が横にそれるが、Apple社のiPadはiPhoneとソフトが全く変わらない。ハード的な差異といえば大きな電池を採用したくらいで、ディスプレイの大きさこそ変われども、解像度などについてiOSにて統一した基準があるため、内容的にはほとんど変わらない。

日本のエンジニアはApple社がiPadを売り出した際に、こぞって分解したと思うが、タブレットをスマホと同一のスペックで売り出すなど、日本人からは出てこない設計思想だ。2割の仕事で8割の完成度。iPadに至っては、iPhoneを焼きなおすだけという安易さである。でもそれで良いとするのがAppleの読みだ。かくしてガラケーは競争に破れ、Appleの製品が売れている。


日本人は労働時間を短縮できるか

労働の目的とは何か、という点から見直す必要がある。本書で指摘されているように、同質の日本人だけで働いていると、その同一環境にて変化を求めるのは難しい。欧米人の上司がいれば、雰囲気は変わる。しかし、適任の担当者を採用するといったことは、ごく限られた企業でしか実施は難しいのが実情だ。





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Kiankou Books Review

エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10(日本経済新聞,2014年12月29日掲載)

1.『労働時間の経済分析 超高齢社会の働き方を展望する』山本勲/黒田祥子
2.『ミクロ経済学の力』神取道宏
3.『量的・質的金融緩和 政策の効果とリスクを検証する』岩田一政
4.『それでも金融はすばらしい 人類最強の発明で世界の難問を解く』ロバート・J.シラー
5.『サービス産業の生産性分析 ミクロデータによる実証』森川正之
6.『地方消滅 ー 東京一極集中が招く人口急減』増田寛也
7.『なぜ貧しい国はなくならないのか 正しい開発戦略を考える』大塚 啓二郎
8.『コーポレート・ガバナンス』花崎正晴
9.『アダム・スミスとその時代』ニコラス・フィリップソン
10.『その問題、経済学で解決できます』ウリ・ニーズィー、ジョン・A・リスト
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