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天下泰平の時代

天下泰平の時代 〈シリーズ 日本近世史 3〉 』高埜 利彦(著), 岩波新書, 2015年3月


第4代将軍家綱から第10代将軍家治までの治世。戦争の無い天下泰平の時代。第二次世界大戦後の現在の時期と様々な類似点があり興味深い。

今の時代との相似形
長い平和が続き、それまでの戦争に対応したイデオロギーから平和な時代に相応しいイデオロギーの採択が要求されていた。それまで戦争へ費やされていた労力は、生産能力の向上、新たな文化の創造、多様な価値観の創出へと振り向けられた。武士、公家はそれまでの治世とは異なる行動が求められた。しかし、天下泰平の世は彼らの能力を完全に発揮し使いこなすことは出来なかったようである。牢人の増加は社会を不安定にした。一方で離農者は都市に流入し、日雇い労働者などの新しい職を創出した。

この変化は21世紀の現在の日本の相似形であるように私には思われる。長らく戦争が続いた日本は、その能力を今度は戦後の復興へと注いできた。その結果高度成長を成し遂げたのは日本的な終身雇用制度が基盤であったが、これは日本人が戦前から続く武士的な魂が形を変えて継続されてきたのだと指摘する向きもある。生産能力の向上により余暇時間を持った現代の日本人は多様な文化、価値観を生み出した。爛熟した文化は様々な職業機会を生み出している。

一方でネガティブな面でも相似形が見られる。

ひとつは、個人主義の否定である。徳川の天下泰平の時代は徳川治世の価値観を遵守し国家の秩序を維持することが至上の目的とされていた。このため、実態からはややもすると離れつつも、士農工商の身分制度は維持され、エタ非人は社会の制度維持装置の外枠装置として固定された。

一方、現代の日本の社会が個人主義を否定しているとは少なくとも形式的にはいえないものの、果たして、いかほどに日本人は独立の気風を養ってきただろうか。昭和の工業製品の大量生産に成功した「夢」に追いすがるばかりで、日本人は時代がすでに変わってしまったことに気付いていない。日本の戦後の成功は個人主義の成功ではなく、戦前から続く武士魂のイデオロギーに頼っていたところが大きいことに、なかなか気付かない。

鎖国政策を見よ。天下泰平の時代、日本を面倒事から遠ざけようと、施政者は外国を日本人から遠ざけた。その結果が、黒舟の来襲だった。

ガラケーを堅持して鎖国を維持した日本のIT・通信産業は、いまや見る影も無く惨敗である。グローバル化こそ一番に考慮すべきことだとの認識が、今でさえ分かっていない企業が大半だ。

江戸時代の泰平の世の中の施策について
この時代を通しての欠点と思われるのが、税制である。基本的に農民への課税しか考えられなかったことに問題がある。米は大阪に集積され、そこで貨幣に交換される。需要と供給の関係から、米の価格が下がれば税収その他収入も下がることになる。米以外の商業による売り上げに対する税や、消費税が検討出来なかったものか。貨幣制度は繰り返し、手入れがされているが、金銀銅等貨幣の資源的価値そのものを担保としなければ流通しなかった点に問題がある。貨幣制度を安定させるには中央銀行が価値を保障する制度が必要だったはずだ。貨幣制度がこういった社会でどのように導入されるべきであったのか、というのは私の今後の研究課題にしておくことにする。

近松門左衛門
『国性爺合戦』が実在の鄭成功をモデルにしていたと書いてある。当時の人々は、瓦版で知ったのだろうか。知りたがり屋で情報に飢えていた江戸時代のことである。様々な形でゴシップとして取り上げられていたのだろうとは想像するが、事実はどのようであったか。

朝廷との関係
幕府と朝廷との関係が興味深い。明治政府が天皇を担いだのは、「天皇=神」の神話を引っ張り出して権威化したためであった。徳川も同じように朝廷を利用していたように思われる。天照大神や大国主命に庇護された東照大権現を権威化し、あわせて軍事演習をかねて日光を利用した。

無駄多き、泰平の世
それにしても泰平の世とはいかに無駄の多いことか。こうでもしないと人間はすぐに戦争を始めてしまうものだと徳川は察していたのか。たしかに、武力に覚醒した明治以降は、1945年の終戦を迎えるまで、戦争が耐えなかった。泰平の世は鎖国が条件であったようだ。それは今も昔も同じだ。




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Kiankou books review シリーズ日本近世史

『戦国乱世から太平の世へ <シリーズ 日本近世史 1>』藤井 譲治(著), 岩波新書, 2015年1月
『村 百姓たちの近世 <シリーズ 日本近世史 2>』 水本 邦彦(著) , 岩波新書, 2015年2月
『天下泰平の時代 <シリーズ 日本近世史 3>』高埜 利彦(著), 岩波新書, 2015年3月
『都市 江戸に生きる <シリーズ 日本近世史 4>』吉田 伸行(著), 岩波新書, 2015年4月
『幕末から維新へ シリーズ日本近世史<5>』藤田 覚, 岩波新書, 2015年5月
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