FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

アダム・スミス

アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界』堂目 卓生(著), 中公新書, 2008年3月


本書を読むに至ったきっかけは、「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10(日本経済新聞,2014年12月29日掲載)」に掲載されていた『アダム・スミスとその時代』ニコラス・フィリップソンを読み始めたことにある。この本はアダム・スミスの生い立ちから修行時代、そして『道徳感情論』と『国富論』を書くに至った詳細な伝記となっているのであるが、そもそも経済学部出身でもない普通のオジサンが暇に任せて読めるような代物ではなかった。アダム・スミスや経済学に詳しい方がより突っ込んだ情報を得るためには適しているとは思われるが、一般受けする本ではないというのが私の印象である。毎年日経が年末に発表しているこのベスト10のリストは、このように、経済学部の教授の方々には貴重で重要な著作ということなのだろうが、一般向けでは無い図書が多く含まれているようだ。「初心者向け」とか「上級者向け」といったようにレベルを設定してもらえると有難い。

さて、それで、「入門書は出来るだけ易しい書物から読み始めよ」との私のポリシーに従って、アダム・スミスの概要がわかる本を探して読み始めたのが本書である。

アダム・スミスといえば『国富論』の神の見えざる手という言葉があまりにも有名だ。自由主義経済・貿易の旗手のようにも思われるが、実のところどうなのか。

アダム・スミスを理解するには『道徳感情論』が重要であることがよく理解できたように思う。『道徳感情論』は『富国論』に先立ち彼の価値観、世界観を表明した書物である。
『道徳感情論』
「健康で、負債がなく、良心にやましいところのない人に対して何を付け加えることができようか。」「繁栄の最高潮との距離は取るに足らない。」「悲惨のどん底との間の距離は無限であり巨大である。」人々が経済活動をする根本理由は「悲惨さ」を避けるためであると表明する。

一方、「賢人」は、最低水準の富さえあれば、それ以上の富の増加は自分の幸福に何の影響ももたらさない」と言っているにもかかわらず、それ以上の財を蓄積する者がいるのは何故か。この分析が面白い。「実は経済を発展させるのは「弱い人」、あるいは私たちの中にある「弱さ」である」。アダム・スミスはそれを人間の「弱さ」故とした。虚栄心や見栄が経済を拡大させる。これをアダム・スミスは必要な性癖であるとする。そしてそれは偶然も作用する。

それぞれの個人は利己心に従って行動する。決して他人への恩恵のためではないにもかかわらず、結果として、他人への恩恵と成している。

アダム・スミスは、人間は「賢人」でもあり「弱い」存在でもあるとする。「悪事を行いつつ知らぬ間に善をなす」というのは、あたかも『鬼平犯科帳シリーズ』を読むが如く興味深かった。アダム・スミスの時代に『鬼平犯科帳』があったならば、おそらく彼は深い共感を得ていたに違いない。

人間の「弱さ」に由来する虚栄心を満たすため富が分配され、結果として社会として全体が利益を得る。「賢者」と「弱き者」の人間の2面性に着目する考え方に私は共鳴する。

『国富論』

「交換性向」についてはリカードがのちに「比較優位」説を唱える元になった説であろう。アダム・スミスは明確に交換性向が社会に富をもたらすと書いている。

「自由主義貿易」の重要性、その元になる公平性の原理はアダム・スミスの核となる部分である。

「互恵の場としての市場」これは『道徳感情論』に示した人間の行動原理を踏まえての論とみると、一貫性が読み取れる。それぞれが自愛心に基づいて行動するも、全体としてバランスが保たれる。 

なお本書で興味深かったのは、アダム・スミスの以下の論説である。

「金や銀が増大ても、この国自体の総量に変化はない。金や銀は必需品・便益品としての役割をほとんどもたない。従って、金属貨幣の量が増大しても、その国の人々の暮らし向きは大きくならない(page 175)。

これは重商主義への批判であるとともに、「貿易黒字」が善であるといまだに信じられている考え方への批判である。日本経済新聞を読むと、月別の貿易収支が赤字になったからと言っては嘆き、黒字になったと言っては喜んでいる者が多い。日経の記者はいまだにアダム・スミスを理解していないと見える。

黒字になったから良いのではない。人々の暮らしぶりが向上してはじめて暮らし向きが向上したとかんがえなければならない。


もう一点本書で興味深かったのは資本蓄積を妨げる要因としての公共部門の支出の存在である。
「公的な浪費や不始末によって貧しくなることはときどきある」 page 192
アダム・スミスがすでに指摘しているにもかかわらず、日本の公的な浪費は構造的に増える一方である。自動的に浪費を押さえ込む仕組みを組み込まない限り、増大は防げないものと思われる。



スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

Profile

Kiankou

Author:Kiankou
新書・新刊・社会科学・自然科学・経済・青春小説・エッセイ・思想・教育・児童・絵本・書籍の読書感想、書評、レビュー。
新書入門、文庫入門で何を読もうかと迷っていらっしゃる方にも、ご参考になれば幸いです。profile


いろいろなおすすめリスト

週間人気ページランキング


Twitterボタン

Latest journals
Search form
Latest comments
Latest trackbacks
Monthly archive
Category
Link
twitter
Display RSS link.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。