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容赦なき戦争

容赦なき戦争 太平洋戦争における人種差別』ジョン・W.ダワー(著), 猿谷 要(監修), 斎藤 元一(訳), 平凡社, 2001年12月


先の戦争の人種に関わる側面を重点的に捉え、日米のそれぞれの政策を正面から論じたものである。人種について述べることはそれ自体偏見を招きやすいし、誤解して伝わる恐れがある。しかしそれを恐れていては先に進まないので、誤解を恐れずに出版してみたというのが本書だ。

この著者はアメリカ人の視点から記述しているため、私の眼からみると日本人の人種に関わる分析については、事実と異なる点がいくつも指摘できる。たとえば日本は皇国史観が国民の間で一枚岩のように堅く信じられていたと分析する。だが、そんなことはありえない。一億総玉砕を謳っていたのは大政翼賛会的な社会下の「オモテ」の世界の話であり、個人的に日本人がすべてに同意していた訳では無い。アメリカから見て一枚岩に見えたとすれば、それはアメリカのプロパガンダが正しく作用したからであり、また、日本人の個人の想いなどが外国に伝わることが無かったからである。

アメリカ人がこのように考えていたと理解することには意味はあるが、それにしても、そもそも、この本は出版される前に日本人のレビューワーからのフィードバックは受けなかったのであろうか。もし一方的な分析に終始していたとすれば、私はそちらのほうが心配だ。

この本が出版されたのは日本がアメリカに輸出超過状態が継続していた時期に当たる。実は、日本はこの時期経済が絶好調であったように書かれることが多いが、それはすべて輸出主導型であった。内需が貧困なため誰も国内で物を購入する人がいない。仕方なく輸出に頼っていたというのが実情だ。内需の豊富なアメリカ人は、借金をしてでも、豊かな暮らしを楽しみたいという余裕があったのである。日本人が「エコノミックアニマル」の名で蔑み疎んじられていたのは、大きな誤解である。ジョン・W.ダワー氏は、この誤解についてきちんと理解して欲しかった。日本人は明治維新以降、殖産産業の名のもとに、「国」や「組織」ばかりを肥大化させることに熱心であったばかりに、個人主義や個人の幸福が優先されなかったのである。これは「人種」の区分では括って理解するのは正しくない。日本の置かれてきた歴史的なコンテキストで理解されるべきなのである。

なお、日系アメリカ人に対して行った虐待行為に対し、アメリカはこのところ継続して過去の誤りを認め、関係を修復する作業を地道に実施している。これは広い意味でアメリカが人種に対して偏見を持っていないことを世界にアピールする狙いがあり、直近ではイスラム国家に対するアピールであると思われる。

日本人が見たアメリカ人観、アメリカ人の見た日本人観にはまだ大きなギャップがある。スミソニアン博物館に原爆のきのこ雲の写真を掲載し、「原爆が終戦を早めた」と掲載して波紋を呼んだ。 "Atomic bombs hasten the war's end, August, 1945."

表面的なプロパガンダのみで理解するアメリカ人は理解が足りないし、英語を解せず説明できない日本人は思慮が足りない。この『容赦なき戦争』はこの本が出版されることが出発点であるべきで、常にギャップを埋める努力が必要なのである。




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Kiankou Books Review ご参考リンク

岩波新書編集部『日本の近現代史をどう見るか シリーズ日本近現代史 10』岩波新書, 2010年2月
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