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都市 江戸に生きる

都市 江戸に生きる<シリーズ 日本近世史 4>』吉田 伸行(著), 岩波新書, 2015年4月


江戸時代は現代人にとっては憧れの時代である。江戸時代の前に明治・大正・昭和の時代があったことはもちろん承知しているけれども、精神的な背景を辿っていくと、江戸時代に行き着く。古きよき日本の原型がそこにあるかもしれないとの想いが日増しに強くなる。明治・大正・昭和の時代は江戸時代に比べると歴史を伝えるエビデンスが多数遺されているけれども、江戸時代の、それも庶民の資料となると、非常に限られてくる。そういったこともあって、人々は歴史学上の事実とは別の次元で、江戸時代に自分の理想を見出そうとする。

理想の江戸時代像が小説やお芝居の中で閉じられているならばまだしも、時にそれがあたかも実在したものとして誇張し語り継がれてしまうと、問題になることがある。『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』原田 実(著), 星海社新書, 2014年8月は高度に理想化された江戸時代の架空の道徳規範が、あたかも実在したものとして間違って伝えられることの危うさを警告する書であった。

私自身についていうと、『世間胸算用 大晦日は一日千金』(井原西鶴)と、『鬼平犯科帳 1』(池波 正太郎)文春文庫, 新装版, 2000年4月、および『眠狂四郎無頼控(1)』(柴田 錬三郎)新潮文庫,2009年7月の読書体験が江戸時代像の原型となっている。井原西鶴の『世間胸算用』は随筆なので、全てがフィクションとは言えないけれども、脚色が混じっていることは否めないし、そもそも後世に向けて歴史的資料価値を意識して書かれたものではなかろう。

そういうことなので、江戸時代の特に都市で暮らした人々の暮らしについては私にはかなりバイアスが混じっている。このような状況で、吉田氏の史実に基づくミクロ像からの江戸像の再構築のアプローチは非常に勉強になった。

都市が人を呼びこみ、新しい生活様式を生む。新しい生活様式は様々な種類の人々の集まりを生み出す。都市が生み出した爛熟したエネルギーは、様々な形で発散され、やがて既成の社会組織では吸収できないところまで膨れ上がる。時代を前に進めていくエネルギーは都市の中で育まれていった。

南伝馬町の周辺。現在は箱崎シティーティーエアーターミナルが近辺にあるけれども、少し離れた場所では小規模な卸店や商工業者が今でも軒を並べている。東京の中心にほど近くにありながら、開発が取り残されたように灰色の空間が存在する。本書に紹介されたエピソードを片手に、今のその土地がどうなっているか、逐一照合してみるのも面白そうだ。

浅草。寺町奉行の管理下にありながら、商業地区を構成し、娯楽を提供する場所でもあった。商売地区だけで5000人もの人が出入りしていたようだ。浅草には入場料を取って中に入らせる見世物小屋の商売があったと本書に書いてある。井原西鶴の『世間胸算用』では「見世物やを開くような安易な商売はしないほうが良い」との記述があったと記憶している。見世物小屋は誰でも簡単に思いつく、いわゆる安直なアイデア商売であったそうな。井原西鶴は商売をするには創意工夫と才覚が必要で、誰でもやっているようなことはすべきでない、と唱えていた。
京都から運ばれた御輿が「若い衆」によって担がれてしまう。若い衆のエネルギーが社会の変革を齎すと『近代天皇像の形成』安丸 良夫, 岩波現代文庫, 2007年10月に書かれていたことを思い出した。若い衆の中には無頼者もいたはずだ。江戸時代であっても一瞬そこだけは無法地帯と化していた瞬間が訪れたことだろう。

品川。多くの旅人が行きかった宿場町。現在はかつての東海道が徒歩で歩けるように綺麗に整備され、無料の休憩所も設置されている。不満といえば、あまりにも綺麗に整備され過ぎていて、かつてこの界隈にいた飯盛女や呼び込みたちのあやしい呼び込みの声が交差したことを想像するのが難しくなってしまったことである。かつての品川の盛況を実感するには、現在では川崎あたりまで行かないと味わえないのかもしれない。


舟運。江戸は運河の街だった。本書では薪の話が出てくるが、舟運の話をまとめるだけでも膨大な話になることだろう。

私の住む市川市行徳地区は旧江戸側沿いにある。今は公園として整備されている本行徳の「常夜灯」は、かつては江戸に塩を供給するための一大船着場であった。現在の日本橋小網町付近にはかつて行徳河岸と呼ばれる場所があり、舟運がさかんだったと伝え聞く。

江戸時代の痕跡は意外に身近なところにある。こういった情報を集積し、検証し、後世に伝える地道な作業が必要だ。本書に倣って、ミクロの情報を積み重ねる作業に私もぜひ参加したい。





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Kiankou books review シリーズ日本近世史

『戦国乱世から太平の世へ <シリーズ 日本近世史 1>』藤井 譲治(著), 岩波新書, 2015年1月
『村 百姓たちの近世 <シリーズ 日本近世史 2>』 水本 邦彦(著) , 岩波新書, 2015年2月
『天下泰平の時代 <シリーズ 日本近世史 3>』高埜 利彦(著), 岩波新書, 2015年3月
『都市 江戸に生きる <シリーズ 日本近世史 4>』吉田 伸行(著), 岩波新書, 2015年4月
『幕末から維新へ シリーズ日本近世史<5>』藤田 覚, 岩波新書, 2015年5月
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