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赤い人

赤い人』吉村 昭(著), 講談社文庫, 2012年4月

明治の時代。北海道の開拓が国策として急務であった折、重罪犯罪人や政治犯をつかって原野が拓かれた。吉村 昭氏は囚人と看守員たちの必死の生活を描いていく。北海道の刑務所から鮮やかに歴史の流れを吉村 昭氏は描いた。

樺戸、網走での強制労働の結果北海道の開拓はことのほか早く進められた。重要犯罪人に対しては罪を犯した者を懲らしめる労役が正当化された。囚人には重要犯罪人とともに政治犯も多く含まれている。明治政府発足当初の強権的な政策が強く反映される。

厳冬期の北海道での労役は悲惨を極める。それを管理する側の看守にとっても大変な労役であった。看守の多くは旧藩浪人等であり、彼らもまた、他に職を得る機会もなく、厳しい生活を余儀なくされた。

当初は殺人など重大犯罪人のほか、西南戦争等で捉えられた氏族、のちには秩父事件、加波山事件、大逆事件といった主犯者たちが送られてくる。囚人の歴史を辿ると、歴史と世相が見えてくる。世の中のひずみは彼ら囚人にしわ寄せさせた。炭鉱、原野の開拓、そして道路。

吉村昭氏は、そして、少しずつ変化しつつある時代を集治監を通して描いていく。

ニコライ皇太子事件は司法制度の独立が保たれたひとつの画期となる出来事である。収容者に強制労働を課すことに次第に批判が集まり、囚人への待遇が変化する。

こういったことの中に日本が少しずつ民主化していった過程を見ることができる。日本は諸外国と条約を取り交わした際の不平等条約に苦しんでいたが、それは、国内法が整備されていなかったことによる。法の整備とは3権分立を基本とした近代法の精神である個人の尊重である。

現代の日本は労働刑は存在せず、自由刑のみしか科すことは出来ない。そのコストは社会が負担することになっているのだが、それが無視できないほどに多額になりつつある。あらたな社会問題の発生である。囚人には非常に苦役だとは思うが樺戸集治監の効率的な運用をみていると、囚人に労働を課すことの合理性に私は理解を示したくなってしまう。

ちなみに、現代の日本国憲法では「絶対に」という言葉がたった1箇所だけ使われている。

第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

これは憲法に残されたトラウマである。非条理な刑罰は、たとえ合理的に見える場合があったとしても、排除すると高らかに宣言している。この一文の裏に秘められた数多くの悲劇に想いを馳せる想像力を私たちは持たなければならない。

吉村 昭氏の喚起する歴史は教科書的な通史を読んだだけでは分からなかった細部が浮かび上がってくる。




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Kiankou Books review ご参考リンク

『日本の近現代史をどう見るか〈シリーズ 日本近現代史 10〉』岩波新書編集部,岩波新書,2010年2月
『落日の宴 勘定奉行川路聖謨 上 新装版』吉村 昭(著), 講談社文庫, 2014年6月
『落日の宴 勘定奉行川路聖謨 下 新装版』吉村 昭(著), 講談社文庫, 2014年6月
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