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「イスラム国」と「恐怖の輸出」

「イスラム国」と「恐怖の輸出」』菅原 出(著), 講談社現代新書, 2015年7月


「イスラム国」誕生の経緯と多国地域にて展開するこの団体の性格がこの本1冊でよく理解できた。最も印象的だったのは、この「イスラム国」が米国のテロ組織殲滅計画に対抗して地域住民を巻き込みながら展開しているとの認識である。「イスラム国」は米国が自ら頼るところの自己中心的な正義感が生み出したやっかいな亡霊だ。

従来的な考えからすると「国家」の存在要件として土地や地域、場所が重要な意味を成す。パレスチナとユダヤがエルサレムをめぐって争奪を繰り返すのも、その場所に特別な意味があるからである。「イスラム国」はイラクを中心とした地域に活動拠点を置くが、彼らは決して地域にこだわっているようには見えない。もちろん軍事的な意味での拠点の争奪は重要な意味があるのだが、彼らの活動の拠点は物理的な場所を越えた、精神的なものの中にある。リビアやフランスでのテロ活動はメディアで大きく報道された。後藤健二さん事件では日本のメディアは大きく報道したことで、日本人の間にも彼らの存在が大きく印象づけられた。

第2章にてイスラム国の創設にアメリカの活動が大きく関与していることを菅原氏は解説している。アメリカの対外政策の根本は、自らの「正義感」の押し売りである。

日本が太平洋戦争でアメリカに敗れた際にはこれが良い方向に動いた。当時の占領軍は日本のシステム、経済の仕組み、そして価値観に至るまで徹底的に解体した。日本は戦争行為自体には反対していた個人が多かったため、アメリカによる徹底的な国家と精神の解体作業を歓迎した。

アメリカはこの「サクセスストーリー」にこだわり続けている。ベトナム戦争、湾岸戦争、そうしてイラクとの戦い。アメリカの失敗は、イスラム地域が複雑な宗教的な背景を持ち、微妙なバランスの上に成り立っていることを無視し、自らの「正義感」を押し付けたことに尽きる。「イスラム国」はもともと西洋的な民主主義国家を享受していたとはいえず、国家としては未成熟な状態であった。その中にあって、アメリカが複雑な現場の状況を省みず一方的な価値観から戦争を仕掛けたと看做されても、反論の余地はなかろう。

アメリカは「テロとの戦争」のスローガンを即刻下ろすべきである。

また、日本にとってはこれから未知の課題を背負わなければならない事態が到来する。日本の従来の外交は「無思想性」であったと入江氏が批判している→『日本の外交 明治維新から現代まで』入江 昭(著), 中公新書, 2007年3月。戦後は「経済立国による平和主義」を前面に出し、確かに経済的繁栄はある程度達成したものの、課題となる「思想性」についてはかはばかしい進歩が見られない。アメリカが明らかに間違った方向に進んでいるときに、何も考えずに付和雷同するのではなく、しっかりと状況を判断し、間違った行動に対しては、アメリカに対してもはっきりと意思を表示すべきなのである。フセインに対する戦争を開始した際も、時の小泉首相は、なんら証拠も無いにもかかわらず、アメリカ・イギリスの合同軍の活動を支持した。のちに「大量破壊兵器」は無かったと判明しているにも関わらず、である。

菅原出氏は「イスラム国」の脅威への対策の記述に重点を置いているが、根本の原因であるアメリカの対外政策の問題点についてもっと突っ込んだ分析が欲しい。何故アメリカは勝算のない「テロとの戦い」から降りることが出来ないのか。何故西側メディアはアメリカ寄りの報道しか出来ないのか。

日本はこれらの問題に対して、独自の見解を示して、自ら仲介の役を買って出ることが、必要なのである。未知で、やっかいな問題ではあるが、こういった問題を自分の身近な問題として捉えなおしてコミットしていくことこそ、必要なことなのである。


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新書・新刊・社会科学・自然科学・経済・青春小説・エッセイ・思想・教育・児童・絵本・書籍の読書感想、書評、レビュー。
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